ラペルはジャケット前面の折り返された下襟、ベントは背中の裾にある切れ込み、タックはパンツ前面の折りひだです。スーツの用語は、名前だけでは分かりにくくても、場所と役割を一緒に知ると選びやすくなります。
この記事は、オーダースーツの相談や試着でよく使われる言葉を、ジャケット、パンツ、生地、仕立て、シャツ・ネクタイに分けた初心者向けの用語辞典です。初めから全部覚える必要はありません。分からない言葉が出たときに、その都度確認するためにお使いください。
最初に覚えたい10のスーツ用語
- ラペル:ジャケット前面で外側へ折り返された下襟
- ゴージライン:上襟とラペルが接する境目
- Vゾーン:ジャケットの襟元から見えるシャツとネクタイの範囲
- ベント:ジャケット背面の裾にある切れ込み
- 本切羽:袖ボタンを実際に開閉できる仕様
- タック/プリーツ:パンツ前面に設ける折りひだ
- クリース:パンツ中央を縦に通る折り目
- ブレイク:パンツの裾が靴に触れてできるたるみ
- 芯地:ジャケットの立体的な形を内側から支える材料
- 目付:生地の一定面積あたりの重さを表す目安
この10語が分かるだけでも、店頭で希望を伝えやすくなります。以下では、似た言葉の違いも含めて詳しく説明します。

ジャケット前面の用語
ラペル
ジャケットの前身頃が外側へ折り返された下襟です。顔に近く、幅や形によって胸元の印象が変わります。細いほど必ず細身に見えるわけではなく、肩幅や胸板との比率が重要です。幅の選び方はスーツのラペル幅は何cm?で詳しく解説しています。
上襟(カラー)
首の後ろから左右へ続く上側の襟です。シャツの襟に沿って自然に収まることが大切で、首の後ろに大きな隙間があるとジャケットが浮いて見えます。英語の「カラー」は色ではなく、襟を意味する場合があります。
ゴージライン
上襟とラペルが接する斜めの線です。位置が高いと視線が上へ集まりやすく、低いと落ち着いた印象になりやすいものの、ラペル幅、ボタン位置、着丈との組み合わせで見え方は変わります。
Vゾーン
ジャケットを正面から見たとき、左右の襟に囲まれてシャツやネクタイが見える範囲です。ジャケットのボタン位置、シャツ襟、ネクタイの色や結び方によって、顔まわりの印象が変わります。
ノッチドラペル
上襟とラペルの境目に、菱形に近い切れ込みがある襟型です。シングルのビジネススーツで広く使われ、初めての一着にも合わせやすい基本的なデザインです。
ピークドラペル
ラペルの先が上向きに尖った襟型です。ダブルブレステッドスーツや礼装でよく見られ、ノッチドラペルより華やかで力強い印象になりやすい仕様です。
ショールカラー
上襟とラペルの境目が目立たず、曲線でつながった襟型です。主にタキシードやディナージャケットで使われます。拝絹と呼ばれる光沢素材を表面に用いることがあります。
胸ポケットとウェルトポケット
左胸にある細いポケットは、主にポケットチーフを挿す場所です。口部分を細い縁取りで仕上げた形をウェルトポケット、または箱ポケットと呼ぶことがあります。スマートフォンなど厚い物を入れると、胸の形が崩れやすくなります。
フラップポケット
腰の外ポケットに付くふた状の部分がフラップです。本来は雨やほこりが入りにくくする役割を持ちます。室内ではフラップを内側へ入れる着方もありますが、現代では出したままでも一般的です。
チェンジポケット
腰ポケットの上に追加される小さなポケットです。かつて小銭などを入れた仕様に由来し、現在は英国調の雰囲気を作るデザインとして選ばれることがあります。
フロントボタン
ジャケット前面を留めるボタンです。シングル2つボタンの場合、立っているときは上だけを留め、下は留めないのが基本です。座るときは外すと生地への負担を抑えられます。詳しくはスーツのボタンマナーをご覧ください。
シングルとダブル
シングルブレステッドは前合わせが浅く、ボタンが縦一列に見える形です。ダブルブレステッドは前身頃の重なりが深く、ボタンが二列に見えます。ダブルは必ずしも礼装専用ではなく、生地や合わせ方によってビジネスでも着用できます。
ジャケットの背中・袖・内側の用語
ベント
ジャケット背面の裾にある切れ込みです。歩く、座る、ポケットへ手を入れるといった動作をしやすくし、腰まわりの収まりにも関係します。ベントの違いはセンターベント・サイドベンツ・ノーベントの選び方で比較しています。
センターベント
背中の中央に一本の切れ込みがある仕様です。すっきりして動きやすく、ビジネススーツでよく見られます。座ったときや手をポケットへ入れたときに、ベントが大きく開いていないか確認します。
サイドベンツ
背中の左右に二本の切れ込みがある仕様です。腰を覆いやすく、後ろ姿に立体感を作りやすいのが特徴です。「ベンツ」と複数形で呼ばれます。
ノーベント
背面に切れ込みがない仕様です。すっきりした礼装的な印象ですが、動いたときの逃げが少ないため、用途や体型に合わせて選びます。
袖ボタン
ジャケットの袖口に並ぶボタンです。3個または4個など複数の選択肢があり、重ね方や素材で表情が変わります。数が多いほど高級というものではなく、全体のデザインとの調和で決めます。
本切羽
袖口のボタンホールが実際に開き、ボタンを外せる仕様です。「本開き」「本開き袖」と呼ばれることもあります。袖丈を後から大きく直しにくくなる場合があるため、採寸と完成寸法の確認が重要です。
開き見せ
袖口にボタンと飾りのボタンホールを付け、実際には開閉しない仕様です。本切羽より袖丈を調整しやすい場合があります。外見だけで品質の優劣を決めるものではありません。
重ねボタン
袖ボタンの端を少しずつ重ねて付ける仕様で、キッシングボタンとも呼ばれます。オーダーらしい装飾として選ばれますが、控えめな並列配置も端正な印象です。
アームホール
身頃と袖がつながる袖ぐりの部分です。単純に広ければ動きやすいわけではありません。腕の太さや肩の形に合い、腕を動かしても身頃全体が大きく持ち上がらない設計が大切です。
芯地
表地と裏地の間に入り、胸やラペルの立体感を支える材料です。毛芯などを用いて縫い留める方法と、接着芯を使う方法があります。着心地、価格、耐久性は芯地だけで決まらず、表地や縫製、設計を含めて判断します。
総裏と背抜き
総裏は背中まで裏地で覆う仕様、背抜きは背中上部を中心に裏地を付け、下側の一部を省く仕様です。総裏は内側を保護しやすく、背抜きは軽さや通気性を意識した選択肢です。季節や着用環境による選び方は総裏と背抜きの違いをご覧ください。

パンツの用語
タック/プリーツ
パンツ前面のウエスト下に設ける折りひだです。ノータック、ワンタック、ツータックがあり、腰や太もものゆとりとデザインに関係します。「タック」と「プリーツ」は店によってほぼ同じ意味で使われることがあります。違いはスーツのパンツはノータック・ワンタック・ツータックのどれ?で解説しています。
インプリーツとアウトプリーツ
ひだが身体の内側へ向くものをインプリーツ、外側へ向くものをアウトプリーツと呼びます。見た目の好みだけでなく、腰まわりの収まりやスーツ全体の雰囲気に合わせます。
股上
股の付け根からウエスト上端までの深さに関係する部分です。深い股上は腰位置を高く見せやすく、浅い股上は軽快に見えやすい一方、姿勢やお腹、ヒップの形によって適切な深さは変わります。
クリース
パンツの前後中央を縦に通る折り目です。センタークリースとも呼ばれ、脚をまっすぐ長く見せやすくします。着用後は折り目をそろえてハンガーに掛けると、線を保ちやすくなります。
ブレイク
パンツの裾が靴の甲に触れてできるたるみです。たるみをほとんど作らないノーブレイク、少し作るハーフブレイク、しっかり作るワンブレイクなどがあります。靴、裾幅、姿勢によって見え方が変わります。
シングル裾とダブル裾
シングルは裾を内側へ折り返して外から折り返しを見せない仕上げです。ダブルは外側へ折り返しを見せる仕様で、カフとも呼ばれます。礼装ではシングルが基本とされ、ビジネスではどちらも選ばれます。
ウエスマン
パンツのウエストを一周する帯状の部分です。腰に合っていないと、ベルトを強く締めても前後の位置が安定しません。店頭では「ウエストベルト」「腰帯」と説明されることもあります。
ベルトループ
ベルトを通すための細い布です。一般的なビジネスパンツに多く、ベルトを使う前提の見た目になります。ベルトと靴の色を整える方法はスーツに合うベルトの選び方をご覧ください。
サイドアジャスター
パンツの左右に付く、ウエストをわずかに調整するための金具やベルトです。ベルトを使わず腰まわりをすっきり見せたいときに選ばれます。調整できる範囲には限りがあり、適切なウエスト寸法が前提です。
持ち出し
パンツ前面のウエストから延び、フロントを留める部分です。長めの持ち出しは腰まわりをすっきり見せやすく、ボタンやホックで固定します。
渡り幅と裾幅
渡り幅は太ももの付け根付近、裾幅はパンツの最下部の横幅です。細くすれば必ず脚が細く見えるとは限りません。ヒップ、太もも、ふくらはぎとのつながりを見て、座る・歩く動作ができる寸法にします。
生地の用語
目付
生地の一定面積あたりの重さを表す目安です。「g/m」や「g/㎡」など、メーカーや資料によって表記方法が異なるため、数字を直接比較するときは単位を確認します。重い生地は常に冬用、軽い生地は常に涼しいとは限らず、織り方や仕立ても関係します。
Super(スーパー)表示
主に原料となる羊毛繊維の細さに関する区分です。数字が大きいほど完成したスーツが必ず丈夫、高級、涼しいという意味ではありません。光沢、柔らかさ、耐久性、着用頻度を考えて選びます。
梳毛(そもう)
比較的長い羊毛繊維をそろえて紡いだ糸や、その糸を用いた滑らかな生地を指します。クリアな表面になりやすく、ビジネススーツで広く使われます。
紡毛(ぼうもう)
短い繊維を含めて紡ぎ、空気を含むようなふくらみを持たせた糸や生地です。フランネルやツイードなど、暖かみのある秋冬素材で見られます。
平織りと綾織り
平織りは経糸と緯糸を交互に組み合わせる基本的な織り方で、表面が比較的すっきりします。綾織りは斜めの畝が見えやすく、ドレープや艶を感じる生地もあります。素材の性質は織り方だけでなく、糸や仕上げによって変わります。
フランネル
表面を起毛させ、柔らかな風合いと暖かみを持たせた生地です。秋冬のスーツやパンツに使われます。摩擦を受ける部分は毛並みが変化することがあるため、着用後のブラッシングと休ませる時間が大切です。
ドレープ
生地が重力に沿って落ちるときの、流れるような見え方です。適度な重さやしなやかさのある生地は、身体の線を拾いすぎず、美しい縦のラインを作りやすくなります。
ブランド名だけでなく、季節、着用頻度、移動量、求める印象から生地を選ぶことが重要です。基礎はオーダースーツ生地の選び方、ブランドの特徴はスーツ生地ブランドの種類で確認できます。
サイズ・仕立て・注文方法の用語
ゆとり量
身体の実寸に対して、動作や着心地のために服へ加える余裕です。ゆとりが少ないほど正しいわけではありません。立った姿だけでなく、座る、腕を前へ出す、階段を上るといった動作を考えます。
体型補正
肩の傾斜、姿勢、左右差、お腹やヒップの形などに合わせ、型紙や縫製を調整することです。単に寸法を大きく・小さくするサイズ調整とは異なり、しわや傾きを整える目的があります。
いかり肩・なで肩
いかり肩は肩の傾斜が比較的少なく上がって見える体型、なで肩は傾斜が大きく下がって見える体型を表す言葉です。優劣ではなく、ジャケットの肩線を合わせるための観察点です。
前肩
肩や腕が身体の前方へ位置する傾向です。デスクワークなどの姿勢でも見られ、袖のねじれや背中の張りに関係することがあります。採寸では静止した数値だけでなく、自然な立ち方を確認します。
反身体と屈身体
反身体は胸を張り、上半身が後ろへ反る傾向、屈身体は上半身が前へ傾く傾向を表します。日常用語としての良い姿勢・悪い姿勢ではなく、前後の丈や生地の収まりを調整するための分類です。
パターンオーダー
用意された基本サイズや型紙を選び、可能な範囲で寸法や仕様を調整する注文方法です。調整範囲や仮縫いの有無は店舗・商品によって異なります。
イージーオーダー
基本となる型紙を基に、体型補正や寸法調整を加える注文方法として使われる言葉です。ただし、パターンオーダーとの区分は業界全体で完全に統一されていません。名称だけでなく、どこまで調整できるかを確認してください。
フルオーダー/ビスポーク
個人のために型紙を起こし、仮縫いを行いながら仕立てる方式を指すことが一般的です。ただし、各社の呼称や工程には違いがあります。価格や名称だけでなく、採寸、型紙、仮縫い、補正、納期の内容を比べます。
シャツ・ネクタイ・小物の用語
シャツカラー
シャツの襟です。レギュラーカラー、ワイドカラー、ボタンダウンなどがあり、顔立ち、ネクタイの結び目、ジャケットのラペルとのバランスを整えます。
カフス
シャツの袖口部分です。ボタンで留めるシングルカフス、折り返してカフリンクスで留めるダブルカフスなどがあります。「カフスボタン」は和製的な呼び方で、カフリンクスとも呼ばれます。
前立て
シャツ前面のボタンが並ぶ帯状の部分です。帯が表に見える表前立てと、折り返しが目立ちにくい裏前立てなどがあり、カジュアル感やドレス感に影響します。
大剣・小剣
ネクタイの幅が広い側を大剣、細い側を小剣と呼びます。大剣の幅はラペル幅と完全一致させる必要はありませんが、極端に差を付けない方が胸元をまとめやすくなります。
ノット
ネクタイの結び目です。プレーンノット、セミウィンザーノットなどがあり、シャツ襟の開きや首まわり、ネクタイの厚さに合わせて大きさを選びます。
ディンプル
ネクタイの結び目のすぐ下に作る小さなくぼみです。立体感と陰影が生まれます。礼装の種類やネクタイ素材によっては、無理に作らない場合もあります。
ポケットチーフ
ジャケットの胸ポケットへ挿す装飾用の布です。白のリネンやコットンを直線的に見せる方法は、ビジネスや式典にも取り入れやすい基本形です。ハンカチとは用途を分けると衛生的です。
シャツとネクタイを整える基本はシャツとネクタイの合わせ方も参考にしてください。
用語が分からないときの伝え方
店頭で専門用語を正確に使う必要はありません。「襟を少し広く見せたい」「背中の切れ込みは二本が好み」「パンツの腰まわりに少し余裕がほしい」のように、見た目と困りごとを普段の言葉で伝えてください。
画像や手持ちのスーツを持参し、「この部分の名前は分からないが、ここを変えたい」と指で示す方法も有効です。フィッターは言葉を試すのではなく、着用場面、好み、体型、動作を確認しながら仕様へ置き換えます。
スーツ用語に関するよくある質問
ラペルと襟は同じですか?
ラペルはジャケット前面の下襟を指します。首の後ろから続く部分は上襟です。会話では両方をまとめて「襟」と呼ぶこともあります。
ベントとベンツはどちらが正しいですか?
一本ならベント、二本のサイド仕様では複数形としてベンツと呼ばれます。日本では仕様名として「サイドベンツ」が定着しています。
タックとプリーツは違いますか?
パンツの前身頃では、どちらも折りひだを指してほぼ同じ意味で使われることがあります。注文時は本数と、ひだが内向きか外向きかを確認すると確実です。
本切羽の方が高級ですか?
本切羽は袖が開閉する仕様で、選択肢の一つです。スーツ全体の品質は、生地、設計、縫製、サイズの適合などを含めて判断するため、本切羽だけで高級かどうかは決まりません。
Superの数字が大きいほど長持ちしますか?
長持ちするとは限りません。細い繊維は滑らかさや柔らかさを出しやすい一方、着用頻度や摩擦への配慮が必要な場合があります。仕事で頻繁に着るなら、数字だけでなく耐久性と手入れのしやすさも確認します。
用語を覚えてから店へ行くべきですか?
覚える必要はありません。着る場面、予算、困っていること、好みの写真を用意すれば十分です。分からない言葉はその場で説明を求めてください。
まとめ|用語は理想の一着を伝えるための道具
ラペル、ベント、タックといった用語は、知識を競うためではなく、好みや着心地を具体的に伝えるための道具です。名前と場所、役割を一緒に覚えると、試着で見るべき点や注文時の選択肢が分かりやすくなります。
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